土佐高初戦の観戦レポート

 土佐高応援サイドからすると、じれったい、じりじりと胸を焦がされる試合の流れ。

 初回の1死満塁の願っても無いチャンスを拙攻で逃してからは、悪い流れにはまり、5回までに残塁はなんと「11」。1回の絶好機だけでなく、2死満塁が2度。つまり、5回までに満塁の好機を3度もつぶしたことになるのです。

 大会前から絶好調と伝えられている土佐エースの吉川周主将は前評判にたがわず、快刀乱麻を断つナイスピッチング。5回まではランナーを一人も出さず、パーフェクトに相手打線を切って取ります。打たせて取り、また、サウスポー特有のクロスファイアーの快速球をズバンと投げ込み、相手打線につけいる隙をいささかも与えません。

 しかし、残塁の山を土佐打線が築いているうちに、6回表、相手打線に待望の初ヒット。打撃妨害で2死1・2塁の場面で次打者にしぶとく2遊間を破られますが、2塁ランナーは3塁を回ったところで自重。もし、ここでワンチャンスをものにされて先制点を奪われていたら、試合の行方はまったく分かりませんでした。

 続く、2死満塁のピンチを1塁ファールフライに切って取り、唯一と言ってよいピンチを脱した吉川投手は、以後、10回までに出した走者は四球の一人のみ。完璧なピッチングは危なげなく、味方打線が1点だけでも取ってくれれば、すいすいと9回完封劇を見せてくれそうなハイレベルの投球ぶりです。

 打線の方は、6回以降もまた満塁のチャンスを逸するなど、8回を終わって「15残塁」。「ひょっとすると、残塁数の新記録では…」なんて思いが湧き上がります。満塁までは相手を追い詰めるのです。押し込まれて土俵際の俵に足が掛かってからの高知農高の澤田投手の精神力と集中力は素晴らしいの一言に尽きます。絶体絶命のピンチにこそ発揮させる強靭なメンタル。胸元をえぐる切れ味鋭い速球に刺し込まれ、凡フライを打ち上げたり、気魄が込められた直球を振ることさえできず見逃しの三振に倒れたり。

 たび重なる逸機は、土佐打線がどうのこうのというよりも、澤田投手の思いが勝り続けたのだと私には感じられました。本当に天晴れな投球ぶりでした。

 土佐の吉川周君の方は、秋の四国大会の香川・小豆島高戦のベストピッチングを思い出させてくれる、相手にまったくつけいる隙を与えない堂々たる投球ぶり。「気魄」+「最速133㎞の伸びのある直球」+「大きく曲がるスライダー」+「抜群のコントロール」は、全国大会でも十分通用する秀逸なものでした。

 高知農高打線は、結局、6回の2安打のみに終わりましたが、これは農業打線がひ弱だというよりも、吉川周投手のピッチングのレベルが一枚も二枚も格上だったように思えます。

 相手打線はランナーを出すことすらできないのですから、安心して見ていることができたのはいいのですが、0点では勝てません。土佐も9回まで、何度も相手を土俵際まで押し込んでも肝心のタイムリーヒットが出ないまま、延長戦に突入。そして、10回裏も疲れが出始めた澤田君に重圧をかけ、1死2・3塁。満塁策の敬遠で、またしても、合計5回目のフルベースのサヨナラ機を迎えますが…。

 代打策は実らず、2死満塁。土佐の攻めは徹底して「打て」。スクイズなど、そぶりもみせません。そして、ことごとく凡打で終わります。今回もそうです。期待の3番、本日2安打の3番吉川周君というこれ以上無い、美味しい場面ですが、あいたあ、打ち損ねてボテボテの内野ゴロ。またしても絶好機を逃したぜよ…とがっかりしましたが、当たりが悪すぎたのが幸いして、1塁はクロスプレーになります。

「セーフ。セーフ。」

 1塁塁審の両手が大きく開き、土佐のサヨナラ勝ちが決まりました。完全に打ち取った当たりでのサヨナラ負けに、澤田投手は膝から崩れ落ちます。


 〇春野球場 【2回戦】

 高知農 000 000 000 0=0
 土 佐 000 000 000 1x=1

(高知農)澤田 - 落合
(土 佐)吉川周 - 楫


 勝ちはしましたが、なんとなくすっきりしない気分です。どうせなら、「持ってる」吉川周君にカキ~ンとセンター前タイムリーヒットを打ってもらって、絵になる形で決めてほしかったですね。でもね、勝ちは勝ち。負ければ夏が終わりの一発勝負。トーナメントは、どんな試合展開でもいいので、勝ちをつかむことこそが至上命題。

 2時間30分以上の熱戦でしたが、5度の満塁のいずれかの場面で、一本だけでも適時打が生まれていれば、吉川周君の出来から言って楽勝の展開に持ち込めたはずですが…。

 ここは、崖っぷちにたちながら、気魄に満ちた、鬼の形相で土佐打線に挑み続け、最後の最後まで危機一髪のピンチをしのぎ切った澤田投手に、賞賛とねぎらいの拍手を送ることにします。敵ながら天晴れでした。一世一代のピッチングは、彼の人生の財産となって、いつまでも輝き続けることでしょう。

 最後に、見応えのある好試合になったのは、両チームの守備陣の堅実なプレーぶりがあったればこそ。最後の夏の大会に向けて、猛練習で仕上げてきたことを十分本番で発揮してくれました。特に土佐は、懸案の内野守備が見違えるほど向上していて、今後の試合に明るい希望を抱かせてくれることが嬉しい私です。