逆転サヨナラ勝ちでベスト8進出 2015年 7月25日

 試合終了直後のホームベース前。整列して校歌を斉唱する土佐高ナインの中に、一人号泣する選手がいます。エースの林投手の男泣き。

 土佐高1点リードで、試合終盤を迎え、満を持して7回からマウンドに上がった林君は、大事な局面でのリリーフ登板の緊張感に加えて、立ち上がりの悪さという短所も出てしまい、四球の連続での押し出しを二つ。先発の高田君の好投に手こずっていた室戸打線に、労無く、逆転を許してしまいます。3-4。

 室戸高の先発右腕投手・リリーフの左腕投手の両安岡君とも、調子が良く、土佐打線は、1回の3安打以外は散発での3本しかヒットを奪えません。エースの林君は、7・8回の2回でマウンドを降り、ベンチで仲間の反撃を待ちますが、独り相撲で勝ち試合をブチ壊しにしてしまった自責の念で、9回はもう居ても立ってもいられなかったであろうことは想像に難くありません。

 後悔の念の強さによる、生涯にわたってのトラウマを抱えてしまうことになりかねない苦境を救ったのは、チームメイトたち。火の玉の闘魂で、粘り抜いて林君を精神的窮地からすくい上げました。

 今日の試合ほど見どころの多い土佐の試合ぶりを、私はこれまでにほんの数度しかみたことがありません。土俵際を綱渡りの絶体絶命のピンチを、けっしてひるまぬ敢闘精神で立ち向かい、気魄の横溢した超美技の連続で、もがき苦しむ味方投手をもり立て、決して勝利への綱を手放しませんでした。

 7回表、3-4と試合を押し出し四球の連続でひっくり返され、なおも、無死満塁の大ピンチ。ようやくストライクを取れ出した林投手のカウントを取りにいった直球をジャストミートされ、三塁線に強烈なライナーをはじき返されます。これが抜けて長打になれば、大量失点。「やまった。終わったか…」と思った瞬間、三塁者が横っ飛び一番。ぎりぎりのタイミングでキャッチし、飛び出していた3塁ランナーはアウト。ダブルプレーです。これが奇跡の一回目。

 3番手の松原投手も9回に無死2・3塁、1死満塁と攻め立てられ、2死までやっとのことでこぎつけたものの、次打者の打球はレフト前へのポテンヒット性の際どい魚信(あたり)、もとい、当たり。前進、また、前進で、スライディングキャッチを試みるレフト。取ったか、落としたか…。私には見えませんでしたが、土佐応援席から歓声と拍手が上がったことで、気が付きました。ふうううううぅ~。倒れそう。これが奇跡の二回目。

 土佐ナインとベンチの盛り上がりは最高潮を迎えています。なんとなくドラマが起きそうな予感がしないでもないですが、いつもの土佐なら「善戦止まり」に終わることが多いので、期待半分、あきらめ半分が正直な気持ちです。9番バッターがサウスポー投手の速球に差し込まれ凡退。ワンアウト。この時点で、あきらめモードが高まり、

「最後までよく頑張った。満塁で一本出ていれば、ワンサイドゲームになる試合を、よくぞここまで持ちこたえてくれたことよ。」

 と、感動が湧き上がってきて、目頭には涙がにじんできましたよ。

 しかし、土佐の選手たちは、火の玉の闘志を一つに結集し、気魄の炎と燃え上がらせます。2ストライクと追い込まれたリードオフマン松下君が、変化球に上手くバットを合わせ、ヒットで出塁。相手投手にとっては悔やまれる失投かもしれません。伸びのある速球での勝負に徹していれば打ち取れる確率は高かったと思うのです。これが奇跡の三回目です。

 ここからは、土佐打線が目を覚ましたかのような怒涛の攻撃を見せてくれます。8回までの沈黙が嘘だったかのように、クリーンヒットのつるべ打ち。相手投手が焦って、浮き足立って、単調な投球になったところを見逃さず、勝負強い打撃で4本のヒットを連ね、同点、そして、サヨナラの得点を奪うのです。これは、奇跡ではなく、「リズム&流れ」でした。気力で次打者につなげるバッティングそのものです。

 7回までは、土佐のリズムの試合でした。打てなくても、相手野手のエラーを見逃さず、したたかに、しぶとく得点を重ね、1点差でしたが、林君の7回の登場で、僅差での逃げ切りを確信しました。それがあろうことか、速球が全部高めに浮き、ストレートのフォアボール・フォアボール・フォアボール…。ヒットを打たれないままに、押し出しで失点するたびに、思わず、「勘弁してくれよ」と言いたくなりますが、ぐっとこらえて、

「林君、頑張って。踏ん張って!」

 と一所懸命に祈りました。

 一生もんの悔いが残る試合をひっくり返してくれたことは、仲間との一致団結による勝利の贈り物という素晴らしい財産を林君の心にプレゼントしてくれたことでしょう。今日の土佐高守備陣の鉄壁の守りは、特筆物。失礼ですが、いつもなら、ここぞいう大事な場面での手痛いタイムりーエラー、暴投、ワイルドピッチ、捕逸などで傷口を自ら広げ、勝機を逸するのですが、今日の土佐ナインはまるで別のチームであるかのような、球際の強さを見せてくれ、危機一髪、「勝負あり」になりそうなピンチを、美技でしのぎきってくれたのです。

 今日の勝因は、ズバリ、「守備力」!遊撃・三塁・左翼をはじめ、堅実かつ華麗な守備を見せて、厳しい試合をノーエラーで守り抜いたことが、負け試合を土壇場でうっちゃれた伏線となりました。そして、終始一貫持ち続けたファイティング・スピリッツ。これは、やはり監督さんの卓越した指導力の賜物です。なにせ、チームの全員が、あきらめない、食らいつく、しぶとい。まるで、明徳義塾。厳しい練習で培った技術があってこそのものですが、心の強さの方を特に感じた今日の試合は、チームとしてのたくましさという面での著しい成長を感じて、とても嬉しく思います。

 一致団結して、土俵際でもあきらめず、歯を食いしばっての全力プレー。そして、自らの持てる力を出しり、逆境をはね返して「勝利」という結果につなげることのできる精神力を培ってくれていることが、こぢゃんと嬉しい土佐ファンです。

 十中八九、勝利を収めていた室戸高ナイン。本当に、素晴らしい試合でした。右左の好投手に、力強い打線。勝利の女神に最後にそっぽを向かれましたが、その戦いぶりは天晴れでした。ただ、惜しむらくは、投手の足を引っぱる手痛いエラーが、4つ出てしまったこと。突き詰めれば、敗因はこの守備力だと思います。

【春野球場】

 室戸高  010 010 200 = 4
 土佐高  001 110 002x = 5

(室戸)安岡航、安岡将-金子
(土佐)高田、林、松原-楫
  〈二塁打〉戸梶敦(室)