ミラクル土佐高 ベスト4進出 2015年 7月26日

 土佐高のエース・林投手が男になりました。

 最後まであきらめず粘り抜く、部員一丸となった闘魂の逆転勝ちで、お膳立てしてもらえた今日の先発マウンド。「男になる」絶好のチャンスをプレゼントしてもらったからには、燃えないはずがありません。

 林君は、昨日の無念を晴らし、エースの誇りを取り戻すチャンスをプレゼントしてくれた仲間の部員全員、監督様や保護者の方々、そして、声を嗄らしてエールをきり続けてくれた応援部の方たちの期待に応える、快刀乱麻を断つ一世一代のピッチングを披露してくれました。

 「名誉挽回」・「捲土重来」という言葉は、彼のためにあると思えるほどの圧巻の投球ぶり。

 優勝候補の一角、強打の高知中央打線を、なんと4回までノーヒットに抑えます。まったく付け入るすきを与えない完璧な投球。昨日とはまるで別人。いえいえ、伸びのあるストレートをビシュッと投げ込んで、強打者たちを切り取っていく今日の姿こそ、彼の本来の姿なのです。

 今日の番狂わせで土佐ファンを歓喜、熱狂させた立役者は、もちろん、林投手です。1回~7回まで、中心打者をも詰まらせ、ポップフライの山を築かせます。5安打1失点のみの投球は「天晴れ」の一言に尽きます。

 打線も、少ないチャンスを確実にものにする勝負強さで、2点を先制。終盤まで競り合いに持ち込むという土佐の作戦通りの展開に持ち込みました。

 しかし、3番手のサウスポー投手の140㌔もありそうな速球と切れ味鋭い変化球に、土佐打線は中盤以降、完全に沈黙。三振で切って落とされる場面が目立ち、2-1以外のスコアでの勝利が予想できない展開で、8回裏を迎えます。

 ここで、西内監督が賭けに出ます。終盤を迎え、やや球威が落ちて、コントロールも乱れそうになった林君をスパッと降板させ、左腕の松原君にスイッチ。これが裏目に出ます。1死を取って、アウトあと5つで勝利と思うやいなや、真ん中に寄った球を狙い打たれ、連打で2点を献上。2-3と逆転されてしまいます。

 なおも続くピンチをしのぎ切るところに、今年の土佐の強さがあります。崩れそうで崩れない。林君も、2死満塁まで攻め立てられても踏ん張り切りましたし、松原君も、これ以上は点を与えず、最終回の味方の反撃を待ちました。

 土佐高劣勢で迎えた最終回表の攻撃。8回裏に逆転されるというのは、一番ショックでがっくりきそうな試合展開なのですが、土佐の選手たちはまったくあきらめるということを知りません。こんな逞しい、忍耐強く、しぶとく粘り強い土佐高を見たことは、滅多にありません。皆無ではなく、たまにありますが、2試合続けてとなると、初めてじゃあないかしら。

 先頭打者が簡単に打って、ワンアウト。正直、応援している私は昨日に続いて、この時点であきらめました。

「やっぱり、中央が土佐にとっては鬼門だったか…。よく戦うたけんど、終盤の1点差に泣かされることは中央戦ではよくあったよなあ…。」

 と考えていると、次打者がしぶとくヒットで後につなぎます。ここからは、まるで昨日の室戸高戦の9回裏のつるべうちのシーンを巻き戻してビデオで観ているような錯覚を覚えます。8回までぴしゃりと抑えられていたサウスポー投手の伸びのある直球を、完璧にとらえ、ジャストミートの連続。

 1死2・3塁で迎えた場面で、カキーンと快音を発して高知市営球場の左中間に伸びて、真っ二つに割っていく打球の描く線は、見覚えのある光景です。39年前、南四国大会決勝・鳴門高校戦の9回表2死1・2塁、0-2の敗色濃厚の場面で、土佐の5番打者・小橋先輩の放った打球を彷彿とさせる、オールド土佐ファンにとっては感動・感激の鳥肌の立つ打球のラインの残像が、今ここによみがえります。

「うお~、すごい、すごい、すごい~。土佐高、すごすぎる~。」

 次々と全力疾走で生還する純白のユニフォームの選手たち。夢か幻かと思わせられる興奮と歓喜と感動のシーンに酔い痴れながら、立ち上がり、日傘をヤクルトファンのように上下に揺すりながら、逆転劇を堪能します。しびれます。喜悦が脳天を貫きます。

 10年分、20年分、いや、一生分の土佐ユンケル、向陽リゲインを脳に、全身に注入してもらえたような恍惚感。昨日・今日のアンビリーバブルな逆転劇のシーンは、私には冥途の土産として持っていける貴重なものとなりました。大袈裟ではなく、正真正銘の本心です!

 しかし、まだ9回裏があります。土佐が強くて、久保田投手や山形投手がいて甲子園を期待された時のチームの悪夢がよみがえります。9回裏や延長の末、サヨナラ暴投などで敗れ去った悔しいあの時、この時。でも、今の選手たちにとってはまったく関係の無い話です。

 あっと驚くなかれ、再逆転され意気消沈したかのように見えた中央打線を、松原君は3者凡退に切ってとってくれました。セカンドゴロを大事に取って、一塁に送球。アウト。ゲームセット。

 思わず、一人立ち上がり、万歳三唱。やりました。やってくれました。すごいです。すご過ぎです。2日連続での、9回1死ランナー無しからの逆転勝利。最後の最後に発揮するこの力強さは何なのでしょう。昨日は、それを「奇跡」と呼びましたが、もう奇跡ではありません。本物の強さです。

【準々決勝・高知市営球場】

  土佐高 000 020 002 = 4
  中央高 000 001 020 = 3

  (土佐)林、松原-楫
  (中央)金城、楠瀬、日隈-伊澤
  〈二塁打〉吉川周、茨、土居(以上、土佐)
        植月、中平(以上、中央)


  しぶとく、堅実に守り抜いて(※今日の試合も、なんと「ノーエラー」)、少ないチャンスを勝負強く確実にものにする。口で言うのは簡単ですが、なかなかできることではありません。それを実行でき、成し遂げ、勝利に結びつけることができる。これを「強い」と言わずして、何というのでしょうか。

 室戸高と中央高に競り勝った勝因は、最後まで戦い抜くあきらめない闘魂。これって、昨秋の準々決勝・高知商業戦で9回までリードしていた試合を、勝ちを急ぎ過ぎて、惜しくも落とした悔しさがバネとなっているのかもしれません。約10ケ月、あの無念と後悔を片時も忘れず、精進に精進を重ねた成果が、昨日・今日の土壇場で、ミラクルの逆転勝利として結実させたのだと言い切れます。

 高知中央高校のみなさん、お疲れ様でした。甲子園を本気で目指して、遠方から土佐の地に学びに来られた生徒選手の皆様に、心から敬意を表します。立派な戦いぶりで、勝ってもおかしくない試合展開でした。勝利は時の運。今回の敗戦からも多くのことを学びえたでしょう。3年生は、次なる目標に向かって、また新たな歩みを始めてくださいね。

 好敵手の皆さんと土佐の選手たちとが繰り広げた激戦は、私たちに大いなる感動と元気と若さをプレゼントしてくださいました。ありがとうございます。