土佐高、今シーズンベストのゲーム! 2015年10月26日

 強風による砂ぼこりが舞い上がるあなんスタジアム。

 僅(わず)か1点リードの9回表、土佐高の守り。2死2塁、一打同点の場面となり、一球ごとに球場内はどよめきます。緊張感と血圧は最高潮に達し、祈るような思いで尾崎投手のあらん力を振り絞っての熱投を見守ります。

 前日のラストシーンも、1点差の9回表、2死1・2塁の一打同点、いや、フルカウントになりましたから、長打が出れば一打逆転の胸を締め付けられるスリリングなシーンだったことがよみがえります。昨日は、サードライナーでしたが、果たして今日は…。

 いやあ、1年生ながら、今やエースの風格と貫録を備えた尾崎君のピンチにいささかも動じることの無い強靭な精神力を発揮した熱闘は、お見事、天晴れとしか言い様がありません。強いゴロを転がされると、何が起こるか分かりません。

 そこを、鋭く曲がる変化球、スライダーでしょうか、チェンジアップでしょうか、最高の球を投げ込むことができるのですから、たいしたものです。ネット裏3塁寄りの土佐側に陣取って手に汗を握る応援をしていた私には、斜め方向からの角度になるので球種は分かりませんが、相手打者はバットに球を当てることができず、バットは空を切ります。

 信じられませんが、甲子園のかかった秋の四国大会で2連勝。相手校の香川・小豆島高は、丸亀高~慶應義塾大学出身のイケメンの青年監督に率いられ、最近めきめきと力をつけ頭角を現してきた実力校。

 「2回戦 2-0 丸亀高校」・「3回戦 6-3 高松南高」・「準々決勝 2-1 大手高松」・「準決勝 4-2 尽誠学園」・「決勝 2-1 高松商業」と強豪や伝統校を次々と打ち破ってきた強敵。戦績のスコアから分析できるように、抜群の投手力を柱に、競り勝つ野球を目指すチームです。

 土佐高にとっては、似通ったチームカラーの高校ですから、比較的戦いやすいチームですし、相手が強力打線ではない分、じっくりと自分たちの力を発揮する心理的なゆとりを持てて戦うことができたのではないでしょうか。

 高知県予選の初戦から、ずっと球場に足を運び、土佐高の試合ぶりを拝見してきましたが、小豆島高との試合が、土佐のベストゲームでした。選手諸君の短期間での見違えるような、目を見張らされるような急成長ぶりには、本当に驚かされます。王者・明徳義塾高に力負けをするのはともかく、公立校の高知小津高や高知工にも押されっぱなしの試合を、試合巧者ぶりを発揮してしたたかにやっとこさで競り勝ったチームが、試合に勝つごとに自信を深め、強く逞しくなり、香川県の1位校を堂々たる戦いぶりで打ち破ってくれたのですから。

徳島県阿南市・【アグリあなんスタジアム
 《 準々決勝 》

小豆島(香川1位)001 011 000 = 3
土 佐(高知3位)012 010 00× = 4
[小豆島]長谷川-植松
[土佐]吉川(周)、尾崎-楫
二塁打〉松原、楫(以上、土佐)、下地(小豆島)

 チームが燃えるような一つの火の玉となって、協力一致の精神のもと、持てる力を出し切っての勝利による四国大会ベスト4進出は、土佐ファンにとっては長く待ち焦がれていた一つの悲願でありました。なんと、23年ぶり。私としては、今の時点で十分満足です。これ以上は望みません。ラグビーWCの日本が3勝1敗ながらも準々決勝進出を逃しても、その偉大なる価値は、いささかも下がらないのとまったく同じに感じています。

 なぜならば、いつも惜しいところで1点差に泣き、「敗者の美学」という言い訳を自分自身に言い聞かせて、失意落胆、悄然として球場をあとにして、とぼとぼと肩を落として帰途につくことが22年間も続いたのですから…。積年の鬱憤が晴れるというか、溜飲が下がるというか、今まで溜まってきた敗戦の悔しさや辛さや土佐敗戦プチウツのもやもやが、この2勝で雲散霧消。この喜びを味わわんがため、今までの切歯扼腕の惜敗があり続けたようにも思えるのです。

 さて、小豆島戦もチームワークでつかんだ勝利でした。まずは、主将の吉川(周)君の頑張りをおおいに称えたいです。前日、粘投で完投勝利を収めた1年生の尾崎君の連続先発登板を回避してくれた西内監督様の期待に、十分応えてくれました。土佐勝利の要因の第一は、吉川投手のナイスピッチング。本当に、頼りになるキャプテンです。

 試合開始前、土佐ベンチ上のスタンドから、最前列に出て、吉川君に馬鹿デカい声で、

「吉川君、頑張ってよ!頼んだで~。」

 と激励の声を掛けさせてもらった時、こちらを向いて大きな声で「ハイッ!」と答えてくれました。こぢゃんと嬉しかったですし、凛々しく、気合の入りまくった精悍な面構えを頼もしく感じました。そして、期待通りの投球ぶりで、4回を1失点。左腕から繰り出す伸びのあるストレートに、相手打者は空振りや見逃しの三振に倒れます。

 私としては、もう2回ほど吉川君に託してもいいかなと思いましたが、監督さんから絶大なる信頼を寄せられている尾崎君が、満を持してリリーフ登板。サウスポーから右のサイドスローへの交代は、相手打線の目先を変える効果があると見込んでの戦術だとお見受けしました。

 打線は、いったい何がどうしたというのでしょう。テンポ良く切れの良い直球と鋭く曲がる変化球を投げ込んでくる好投手から、しぶとく安打を重ね、二ケタの10安打。同じ左腕の高知工のエースにきりきり舞いさせられ、4安打しか打てなかった打線が、たった2週間で強力打線に生まれ変わっているのですから、驚嘆するばかり。何かの魔法にかけられたかのようなアンビリ―バブルな変身ぶりです。

 夏の大会の学園の左腕、新人戦の市商の左腕、秋季の高知工の左腕と、いずれも好投手のサウスポーとの対戦の経験が、大事な四国大会での準々決勝にこぢゃんと活かされました。

 先手、先手と攻めて、主導権を握った土佐ペースの試合内容で、最近では一番危なげないゲームでした。ただ、鍛え上げられてレベルを上げてきた守備陣は、序盤はノーエラーで頑張っていましたが、尾崎投手を盛り立てるべきところで、手痛いタイムリーエラー。ここは大いに反省し、改善すべき課題として今後の練習で技を磨き、堅実な守備をここぞという場面できちんとできるようにしてほしいと願います。

 さあ、来るところまで来ました。春野から阿南へ進み、いよいよ来週は鳴門に乗り込みます。高知県勢同士、春のセンバツ甲子園を掛けてのガチンコの一騎打ち。勝利を収めた方が、甲子園出場確定です。土佐は、新人戦・秋季と明徳には2連敗。しかし、3度目の正直という言葉もありますから、各上の相手だからといささかも萎縮などすることなく、今まで通り自分たちの持てる力を存分に発揮するのみ。

 土佐はチャレンジャーですから、失うものは何一つとしてありません。甲子園など意識からのけて、ただ、「今のプレー」にのみ意識を集中することが肝要です。色気を出して、自らに精神的重圧をかけると、したたかな明徳につけこまれます。土佐も粘っこく、しつこい、渋いチームカラーに育ってきてくれていますが、明徳はそれ以上にそれらを持っているのですから。

 選りすぐられ、鍛え上げられた選手たち。野球に青春のすべてを捧げ、全身全霊で甲子園をつかみにかかる明徳義塾。甲子園をかけての大一番で、胸を借りる心構えで、頭を下げ、脇を締め、勢いをつけて、思いっきりぶちかましてほしいと願います。ビビったら、試合をする前から負けですからね~。

 ちなみに、1回戦の徳島城南高戦、私はネット裏2列目に座り、土佐の試合を応援していましたが、なんと私の真ん前の席に明徳のM監督様が来られたではありませんか。他県の高校の監督さんたちと野球談議をしながら、土佐の試合を観戦し、対戦予定の第2試合英明・新田戦を待っておられるのです。

 う~む、声をお掛けして、握手をしてもらったり、帽子にサインをもらえば良かったと後で考えました。実際には、その逆で、土佐の試合終盤、尾崎投手が活きの良い投球を披露してくれている際に、思わず本音が口をついて出てしまいました。

「尾崎君、ナイスピッチング。明徳さんが見ゆうで~。」

 四国大会準決勝での「土佐・明徳戦」が実現するとは、その時にはまだ夢のまた夢でした。それが、なんとなんと、Dreams come true.土佐惜敗の失意の涙をもう1dl以上は流しているであろう私としては、まさに望外の喜びであるのです。

 最後に、小豆島高は、選手たちが明るく、楽しそうに野球をする好チーム。自主性を重んじた指導方針で、伸びやかなはつらつ野球は、春のセンバツ甲子園で高校野球ファンの心を揺さぶり、胸を熱くすることでしょう。「21世紀枠」での出場は、「24の瞳」の舞台の島という話題性、チームカラー、そして、香川県で堂々の優勝という実力と戦績を合わせもちますから、確実です。

 是非とも、甲子園での小豆島・土佐の再戦が実現してほしいと願っていますが、そのためには、今度の鳴門決戦でなんとしても明徳を打ち倒さなくては!大学生のチームかと見まがうようなハイレベルのチームですが、野球は投手力。好投手を3~4枚揃える土佐ですから、臆することなく、全力でぶつかってほしいですね。