土佐の春は過ぎ、夏に始動 ①

 奇(く)しくも、個人戦を想定した場合の一方的なスコアの予想が的中してしまいました。試合前日に、

「柔道や剣道の団体戦なら、個人戦の集合体で勝ち目は薄いです。9人戦の試合なら、多分、9-0でボロ負けは必至(ひっし)です。」

 と書きました。土佐高ナインは全力を尽くした戦いぶりを見せてくれるも、誰の目にも明らかなる実力差はいかんともしがたく、偶然の一致の0-9の完敗を喫(きっ)してしまいました。

 試合を振り返り、反省すべきは反省して今後のチーム力アップの糧(かて)にしてほしいです。全国最高峰のレベルのプレーの精度や破壊力、緻密(ちみつ)さなどを肌身(はだみ)にしみ込ませることができたこの上ない貴重な体験の2時間10分だったのですから。

 夏に高知学園明徳義塾高などの強豪、難敵を打ち破って、春夏連続甲子園出場をつかみ取ることが次なる至上命題。学園・明徳の遥(はる)か上のハイレベルの高校と対戦できた経験を活かさない手はありません。

 試合を振り返ると、まず、試合のすべり出しは最高でした。強豪との対戦では、立ち上がりに大量失点して早々に試合の行方が判明してしまうことが最近、ままある土佐高ですが、甲子園での本番では、落ち着き払った尾崎君のクレバーなピッチングで初回を無難に切り抜け、2回の土佐の攻撃。

 4番に抜擢(ばってき)された柴田君の目の覚めるような右中間を破る2塁打に続いて、5番・松原君もヒット。送球間に2塁をおとしいれる好走塁で、無死2・3塁の願ってもないチャンスを迎えます。実力差がある相手には先制点を奪うことが必須条件。1塁側内野特別席で試合を見守る私のボルテージは上がりっぱなしで、何度も大声での選手への激励の叫び声を上げ、周りの観客の注目を浴びます。

 ここで1点でも上げることができれば…。相手の焦(あせ)りを誘うことができて、ひょっとすればひょっとして…。期待感が膨らみますが、ここを抑えきるのが強豪校の強豪たる所以(ゆえん)。相手に重圧をかける作戦をとるまでも無く簡単に打って出て、これ以上ない好機を逸(いっ)してしまいます。

 一方的な大敗を喫する伏線は、この痛すぎる逸機。相手にプレッシャーをかけたり、焦りを誘う工夫や余裕を持てないところが、土佐の課題であります。

 これは、昨秋の四国大会準決勝、明徳義塾戦でもまったく同じことがありました。序盤に主軸の3連打でつかんだ無死満塁の絶好のチャンスに、策なく打って出てホームゲッツー。この好機に1~2点奪えていれば、尾崎君の絶好調と打線の好調ぶりから考えて、一方的な展開に持ち込めて、勝利をつかみ、あの試合の時点で春のセンバツ甲子園出場を決定づけてくれたであろう場面が、またしてもよみがえりました。

 3回裏、死球などで塁が埋まったところで、ガツンとタイムリーを浴び先取点を奪われ、続いて2点を追加され、ここで勝負あり。超高校級相手エースの高山投手から、4点を奪うなんてことはできませんし、火が付いた大阪桐蔭打線をこのまま抑えることなどできはしませんからね。

 3点の援護をもらった相手投手は、余裕とゆとりを取り戻し、落ち着き払った投球で、3回以降8回まで土佐打線を完全に封じ込めます。沈黙の土佐打線。2回に2安打を放っていなければ、ノーヒットノーランになりかねないシャットアウト投球でした。9回に幸運な内野安打が出ましたが、結局打撃陣は、わずか3安打。全国トップレベルの好投手の生きた球を晴れ舞台で直に観察できたことを今後の練習に活かし、打撃のレベルを数段上げてほしいと願います。

 ワンチャンスを生かし、接戦に持ち込む試合展開に持ち込める可能性があっただけに悔やまれる敗戦ではありますが、実力差は相当のもの。大阪のみならず関西一円から野球エリートがこぞって集まる知名度とスカウト力をバックボーンに、鍛え抜かれ、選(よ)りすぐられた実力者揃いの大阪桐蔭高。「全国制覇」のみを目的とする高校と、「甲子園出場」を目標とし、甲子園1勝を夢をする高校とでは、野球部の部員獲得の時点で早くも著(いちじる)しい格差が存在することは明らかです。

 まるで、立教大学を受験する学力レベルにある受験生が、東京大学に挑(いど)むようなものと表現すると分かりやすいたとえ話になるかもしれません。

 To be continued(=続く)