土佐高、明徳にリベンジならず

 チャレンジマッチ予備戦の観戦に、春野球場に行ってきました。試合開始1時間以上前に球場には到着して、選手諸君と同じくらい応援に燃えていました。

 結果は、強敵・明徳義塾高に3-7と敗れ、新チームになってからの明徳戦の連敗記録は4に伸びました。これは珍しい記録です。こうなれば、明徳と対戦するまではこれからの大会も他のチームには絶対負けずに、県体・夏の選手権でも是非とも対戦してほしいものです。そして、ラストの夏に難敵を打ち破り、悲願の夏の甲子園出場、こういきたいものです。

 さて、試合ですが、春のセンバツ甲子園でもせめてこれぐらいの戦いをしてほしかったと言える、集中力と粘りを見せてくれた土佐高野球のらしさが少しは見られた試合でした。序盤の4回表までは…。

 1・2回のチャンスを活かしてしぶとく1点ずつを奪い、先取点・追加点。土佐のエース・尾崎君は破壊力抜群の明徳打線を3回までぴしゃりと抑える理想的な立ち上がり。土佐が明徳から金星を挙げる可能性が出てくる序盤の試合展開で、私の胸には大きな夢と希望の雲が湧き上がります。

 しかし、思わぬ落とし穴があり、尾崎君は自らその中に足を突っ込んでしまった感があります。それは、私の思い過ごし、思い込み、いわば独断と偏見をはらむ見解かもしれませんが、敢えて、ここで取り上げます。問題のシーンは、土佐が戦前の予想をくつがえして2-0とリードして迎えた4回表1死の攻撃、8番尾崎君の打席。

 ボテボテの内野ゴロで、1塁クロスプレーは、土佐サイドの私から見ると際どくセーフだったと思うのですが、惜しくも塁審の判定はアウト。ここまでは、まあ仕方がないのですが、問題となるのはこの後です。尾崎君は、全力疾走で1塁キャンバスを駆け抜けた後、その勢いをまったく緩めることなく猛スピードで3塁側ベンチまで駆け戻ったのです。

 気合の入りようが違う、気魄に満ちたその姿に感動をおぼえますが、一方で、不安も感じます。際どい間一髪のプレーのためと同じスピードと気合の入った全力疾走でのベンチへの戻りをエースピッチャーまでもが律儀にしなければならないものだろうか…。尾崎君がぎりぎりアウトに倒れてツーアウト。次の打者よ、早打ちで倒れてくれるなよとの願いが通じて、9番の井上君が選球眼良く粘ってくれ、尾崎君が思いっきり走った直後のマウンドにのぼる事態は回避できました。

 それでも、足腰の筋肉をフルに使ってすぐのマウンドに変わりはありません。テンポ良く2ストライクを取ったまではいいのですが、追い込んでからの痛恨のデッドボール。これでリズムを崩したのか、明徳打線につかまり、あっという間に3点を献上。明徳打線の迫力に、じわじわと精神的プレッシャーをかけられての4回の逆転劇を許すピッチングになったのかもしれませんが、3回までのテンポやリズムの良さが一転、調子を崩した遠因が、さほど必要とは思えない1塁駆け抜け後もスピードをいささかも落とさない、全力でのベンチ戻りによる筋肉の張りにあったのではないかと思うのは考え過ぎでしょうか。

 それほどやわな体ではないと断言できるほど、日頃の猛練習で鍛えられはしていると思いますが、格上の強敵を打ち破るためには、少しといえどもマイナス要因は取り除き、勝利に近づく可能性を高める戦略を選択することが肝要だと考えます。

 土佐の持ち味であり、チームの特色である全力疾走をするなと言うのではありません。エースピッチャーまでもが、体力を無駄に消耗しかねないベンチ戻りの際の、50メートルタイムトライアルの如き韋駄天走りを控えた方がいいのではないかと思うのです。

 同じようなシーンを、前にも見たことがあります。4年前のチームのこれまたエースだった宅間君が、1塁への全力疾走の後、キャンバス上でファーストの選手と交錯。腰か背筋を痛めたことは明らかなのに、これまた全力疾走でベンチに下がったシーンです。この時の故障は、確かあとを引いたように記憶しています。

 尾崎君の気持ちも分かります。もう1点を取るために1塁を必死の形相で駆け抜け、仲間たちにこの気魄よ届けとばかりに一所懸命に走る姿を見せて、闘魂を伝播させたい想いは十分伝わってきます。しかし、エネルギーの温存も大切です。わざわざ、したたかでしぶとい明徳の選手たちにつけいる隙を、自ら作らなくてもと考えるのは、余計なお世話でしょうか。

 突然、乱調になり、やらずもがなのデッドボールで傷口を広げ、ストライクを取りにいったところを狙い打たれ、ガツンガツンと長打を浴びて、4・5回に5失点。これで、勝利の行方は決しました。

 夏場は、酷暑により体力の消耗は今以上に甚だしくなります。看板の全力疾走は野手や、ランナーコーチにお任せして、土佐のマウンドを守るエースには、普通のかけ足をさせるというベンチの采配も、夏の選手権では必要不可欠と思いますが、どうでしょうか。部独特の守るべき伝統だとは思いますが、エースに限っては少し緩めることも許容範囲に入れることも、勝つために採用する知恵ではないでしょうか。

 闇雲に走るのではなく、時と場合と人を選び、知恵を働かせる頭脳的作戦をとることで、1%でも勝つ確率を上げてくれることを願う気持ちが強まった今日の試合でした。

 総評としては、内野守備陣が大幅に入れ替わり、安定感が増しました。失策2は、盗塁の際のもの。秋にぽろぽろこぼしていた凡エラーがなかったことは収穫です。打撃陣は…、う~む、今一でした。秋に絶好調だった吉川周君が、甲子園からずっと不調で、夏に向けての復調が待たれます。吉原君・松原君・馬場君は好調で、明徳の好投手からヒットを打って土佐応援団を沸かせてくれました。

 そして、2番手でマウンドに立った吉川君が、数イニングなら十分明徳にも通用することも分かりました。これも、好材料。夏の選手権で一人エースに頼りっきりはあまりにも酷ですし、学園・明徳・市商・中央・岡豊・中村・南・檮原・高知工などと連戦になると、孤軍奮闘での連勝は至難の業。

 一冬鍛えて、腰回りがデカくなり、球威もさらに増した尾崎君の負担を軽減できる2番手・3番手の台頭が期待されます。ちなみに、尾崎君の今日の最速は133㌔でした。


 ○県営春野球場

【四国大会県代表決定戦】

 土  佐 110 000 100 = 3
 明徳義塾 000 320 20X = 7

(土佐)尾崎・吉川周・清岡-楫
(明徳)北本・林田-古賀

三塁打〉水島・脇屋・西村・高村(以上、明徳)
二塁打〉古賀・西村(以上、明徳)