土佐高、守備力の差で市商を破る ②

 不敵な面構(つらがま)えのエース尾崎君は、ふてぶてしく見えるほどに落ち着き払ったピッチングで、ピンチにもいささかも動じる様子がありません。

「打てるもんなら打ってみい。本気で投げたらいつでも三振はとれるがぞ!」

 とばかりに自信満々に胸を張って、威風堂々マウンドに立つ姿は、土佐サイドからは頼もしい限りですし、相手側から見るときっと憎たらしい存在でしょうね。

 自信満々なのは、尾崎君だけでなく、土佐の選手全員に共通していて、精神的な逞しさを感じます。昨年秋に、明徳義塾高と三度(みたび)あいまみえ、四国大会や甲子園を経験していることがメンタル面の成長に大きく貢献しているように見えました。チーム全体が、

明徳義塾に挑戦する権利をつかむまで負けるわけにはいかん。」

 という意識を強く持っていることが伝わってきます。

 私たちの頃は、あの強い高知商の選手たちのユニフォーム姿を見ると、威圧感を覚え、応援席にいてもビビらされたことでしたが、今や、高知商がシード校の土佐に対してのチャレンジャー的立ち位置にあり、土佐の選手たちの気魄に押されたのか、市商らしからぬ手痛いタイムリーエラーをしてしまったり、投手が自ら崩れ、コントロールを乱し、ピンチを広げる四死球を出しまくる姿に、往時の強豪の面影は影を潜めています。

 試合中盤から後半に、手痛いミスや四死球が出始めると、ネット裏の市商ファンからは厳しい声援が上がりましたし、監督さんからも発破をかける以上の、「怒号」とも思える気合入れの叱責(しっせき)がベンチから発せられるようになりました。市商サイドの応援からすると、「自滅」の格好で点差を開かれることは、伝統校として忸怩(じくじ)たるものがあるのでしょうね。

〇春野球場 【準々決勝】

土 佐 002 200 002 = 6
高知商 000 010 100 = 2

(土佐)尾崎-柴田
(市商)平野、松田、近澤、黒岩-乗松、岡村
二塁打〉黒岩、山田(以上、市商)、尾崎(土佐)

 今回の大一番の勝敗を分けたものは、ずばり、「自信」と「気魄」だと私は見ます。エースを立ててきた土佐、背番号10→18とつないで、最後に1を登板させた市商。信頼できるエースが今の段階で育っている方に、試合の流れが傾いたように思えます。また、ここぞの重要な場面でボーンヘッドとも言えるミスが出るのは、メンタル面での弱さがあるからです。

 土佐高は、自信と気魄をエネルギーとして、「運」も味方につけました。相手打者を研究し、癖を見抜き、守備位置を臨機応変に動かし、ヒット性の当たりを凡フライにしたのは、偶然ではないにしても、「ツキ」には恵まれていました。特に、初回のピンチに鋭いセンターへの当たりをセンターが背走よくナイスキャッチしてくれたのは大きかったです。これが抜けていれば、市商が2点を先制。そうなっていれば、逆のスコアでの敗戦もあり得たと思います。

 それと、一つだけ残念だったのは、浮き足立った市商投手と守備陣が自滅しかけ、4-0となった上に、1死満塁となった4回表の場面で、土佐期待の4番柴田君が、早打ちして内野ゴロゲッツーに倒れたシーンです。ここは、たたみかけてビッグイニングにしてほしかった。夏の大会では、満塁のチャンスをことごとくつぶしてしまう「満塁病」とでも名付けたい拙攻で、残塁の山を築いたことが記憶に新しいですが、その負の連鎖を早く断ち切って欲しいと願います。

 ここで、粘っこく攻めて、一本出れば、コールド勝ちも見えてきたであろう惜しい場面でした。思い起こせば、甲子園のかかった大一番の昨秋の四国大会準決勝、明徳義塾高戦の序盤、無死満塁と攻め立てたシーンで、簡単に打って出てサードゴロゲッツーになったシーンがよみがえります。あの試合も、あそこで1本出ていれば、また外野フライでも打てていれば、尾崎君の出来から言って、明徳から金星を上げることが十分可能だったこともあわせて申し添えておきたいです。

 さて、土佐高の試合を、この秋に最低でもあと2試合見られることになったのは、心から嬉しいです。願わくば、躍進著しい中村高を準決勝で打ち破り、決勝に進出し、チームの総力戦で決勝でも相手校を打ち破り、高知県1位代表校として、松山は坊ちゃんスタジアムに乗り込んでほしいです。

 その可能性は十分です。何と言っても、バッテリーが素晴らしいですからね。チームの要の頭脳明晰で強肩の捕手にして4番バッターの柴田君の存在は、チームに大きな勇気を与えます。そして、絶対的なエースは大黒柱にふさわしい信頼度抜群の力量と強靭なる精神力を備えていて、頼もしい限り。

 エースを盛り立てる守備陣も、たまにはミスもありますが、それを補ったり、帳消しにして余りあるナイスプレーが山盛りてんこ盛りだったこの試合を自信につなげ、2週間後の2試合を全勝するべく厳しい鍛錬に積極的に、自ら進んで打ち込んでほしいものです。この2週間、あれこれと土佐高の戦いぶりを想像して楽しめると思うだけで、土佐高野球熱烈ファンの血は湧き、肉躍る思いです。